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(壱) 2トンほど積める平台のトラックに80ccのモトクロッサー2台をのせて海岸に向かった。 いつもの軽トラックではない。 都合に合わせて次々といろいろな乗り物や、物資、機材など勝手に登場するが、棟割り長屋の周りにはどうゆうわけか色々なモノが揃っていたり、ころがっていたりする。例えばバイクなら、動く動かないは別として12〜3台ごちゃごちゃと待機している。 普段なら"自然に出来上がった"仙台新港モトクロスコースや、同じく自然に出来上がった日辺(にっぺ)のモトクロスコースに出かけるのだが、今日はすこし趣向を変えて砂浜を走ってやろうということになった。 海岸の松林の適当な場所にトラックをとめ、2台のバイクを降ろす。そして、燃料づくり。混合気なのでメスシリンダーを使い、ガソリンとオイルを正確に調合する。ライダーの上手い、下手(主に下手さ加減をよく心得ておくのが重要)によって微妙に混合比を変える。 タンクを満タンにする。 またがる。 エンジンをかける。 甲高い2ストロークの音。 カストロールの乾いた甘い臭いが、立ち上がる。 運転担当者を先頭に砂浜へ乗り出す。 彼は快調に飛ばし、オレは前に進まない。 彼はもう豆粒くらいになってしまった。 砂の上で2輪車を走らせるには、まず強力なエンジンが必要だ、が80ccのモトクロッサーなら十分すぎるくらいのパワーはある。 次に問題となるのは"腕"ではなく、"度胸"。 要はスロットルを思いっきり開ければ良いのだ。 それが分かっていながら「前に進まない」とか「前輪を砂にとられ、後輪はスタッグ寸前」というのは、完全に度胸が足りないからなのである。 しばらく、グズグズ松林の近くをさまよっているうち、運転担当者はもう見えないところまで行ってしまった。それでもこちらがグズグズしていると、同担当者は目の前の波打ち際を猛スピードで横切り、今度はアクセルターンで反対側へ行ってしまった。 なんてカッコいいんだ。 オレは、なさけない。 少しずつ陽が傾き始めている。やがて、だいぶ走れるようになってきた。 (弐) ある瞬間、自分の体がバイクもろとも砂の上に『浮く』感じがつかめた。 そうなるともうさっきまでの卑屈、ひがみなどどこ吹く風。いっちょやってやろやないの、とばかり。得意満面、天上天下唯我独尊と舞い上がり、走り出すのである。 しかーし。"下手"に変わりはない。砂浜で8の字をかく、アクセルターンやブレーキターンをやるなどとんでもない話。そういう高級テクニックとは全くご縁もなく、ただまっすぐにヒタ走る。 どこまでも、どこまでもまっすぐ走り、行き着くところまで行く。そこはもう砂浜が途切れ、大きな川の河口になる。仕方なくノタノタと方向を変え来た道を、また飛ばす。 それにしてもどうだこの爽快感は!! そんなことを何回かくり返すうち、ある場所でエンジンが「プスッ」といったきり、微動だにしなくなった。 困った、困った、困ったを13回くらいくり返したが、どうしようもない。 「ははぁ、こりゃあ、ガス欠か」と冷静になる。 フューエルタンクのキャップを外し、中を覗くとしかし底にはまだ燃料が残っている。 コックをリザーブにまわし、キックした。 キックした。 キックした。 何度やってもダメ。ダメ×20回=ダメ。へたり込む。 こうしてうすらぼけているうちに、普通の顔をした運転担当者がにょっきりと現れたれ、 「どうした」とのたまう。 「エンスト」 「ガソリンは?」 「ある、ある」 すると同担当者は何も言わずとって返し、また現れた。工具を持って来たのだ。 しばらくあちらこちらいじりまわし、エンジンのヘッドを開けたとたん、 「こりゃ、駄目だな」。 「ピストンをぶちぬいたのであるよ、キミは」と冷静に言い放ち、また砂浜から消えた。牽引ロープを取りに長屋まで戻ったのだ。 (参) 全身汗まみれ状態から、少々汗まみれとなり、やがて顔や腕に塩を残して常態に戻った。運転担当者が去ってしばらくの時間が過ぎた。 夕闇のブルーは本格的な夜色になり、座り込んで波打ち際をぼぉ〜っと眺めていると、仙台湾にぽっこり月が出て海は銀色に染まった。 運転担当者が戻った。 「どりゃッ」の一声と共に牽引ロープがまっすぐに伸び、先導の80ccが猛烈なうなり声をあげた。運転担当者は先導バイクとともに走り、オレは引っ張られるバイクのハンドルを握って押し出した。 先導車が巻き起こす砂と排気ガスまみれで走った。 1本のロープを間にしてバイク2台とヤロー二人が満月の下、うめき声をあげながら全力で走った。 汗も唾も小便も涙もリンパ液も胃液も、とにかく体中の水分を使い切って松林のトラックの前になだれ込み、ひっくり返った。 笑いがこみ上げてきた。 息はひきつったが、隣りでバイクも笑っていた。 by ワンコ ※当文章の無断転載や引用を禁止します。 |
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