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午後2時。 山形県側からその冬山に取り付いた。 登山隊は3名。 郡山へんたい倶楽部&極低地登山隊のメンバーである。 極低地登山隊員は郡山へんたい倶楽部と同じなので、つまりはどちらでもよい。 装備はマウンテンパーカ(正確には単なるヤッケ)と長靴、ワークブーツなどの足元。軍足に軍手。それにスコップ1本とジムニー1台。 2ストのジムニーはのろいが走破性能抜群でどんなにせこい山道、獣道に入っても帰って来ることができる(多分!?)。四駆の中の四駆ではないかと思う。 比べてはいけないが、ランドローバーやレンジローバー、ランドクルーザー、パジェロなどという巨大な本格四駆では、 この登頂作戦、失敗に終わっただろう。 今回の登山の目的は、冬山で普段通りの食事をしよう。したがって普段使っている御飯茶碗や皿、箸、グラスを持って山にのぼろうというもの。 標高差320メートル。 積雪は平均4〜50cm。 笹谷峠を越える旧道は舗装道路だが、山腹を貫通する国道286号線が圧倒的に優先されるため、冬期間、ほとんど除雪はされない。 取り付きから到達目標の笹谷小屋まで、ラッセルの距離およそ6千メートル。所要時間5時間。 時速1.2Hで進む長い登攀だった。 取り付き直後に我々を追い抜く一団があった。完全な冬山登山装備で身を固めた、高校か大学の山岳部員たちである。彼等は口々に「こんにちわ」といい、車道に直交する登山道に消えて行った。ジムニーの前にはだかる雪の壁をえっこらさ、やっこらさと、ラッセルしている我々の脇を。 我々は得意満面で人力自動車ラッセルにいそしんだ。 雪をスコップでかき、1メートルくらい除雪すると自動車を1メートルくらい走らせる。最初の2時間は汗だく。次の2時間は沈黙と迫りくる夕闇との闘い。 残りの1時間は空腹、寒さ、やけくそとあせりの壮絶な闘いであった。 とうとう着いた。 山小屋の木戸をガバッと開けた時の、喜び。 明るい新世界、暖房と寝床と屋根のある世界。なんとすばらしい場所なんだ。 とっくの昔に到着し夕食も終えてすっかり寛いでいた、先の山岳部員みなさまの呆れた、半ば軽蔑した顔もなんのその。 我々はどーせインチキ登山隊である。 そのインチキがバカの一念でここまで来たのであるぞ。 少しはソンケーしてくれ。 ギャハハハハハ〜。押さえても、押さえても込み上がってくる嬉しさが、彼等の白眼に勝ったのだよ。 彼等の修験者のようなストイックさ(当たり前だ、彼等は真剣に冬山の訓練に来ている)に比べて、我々は陽気である。 「まっ、1杯どーぞ」 「いやいや、どーも... ムムいける!」 「その、なんですな。グビッ」 「た〜っ、きくぅ〜」 「やはり、あのようなキツイ労働の後のこの1杯というものは、なんとも格別 ですな」 「あれ、これはこれは失礼!ご返盃を、さ、さ」 グラスにビール。フォアローゼスのオンザロックスや日本酒の熱燗、ベーコンや缶詰め、凍っていない握り飯、温かいスープなどなど盛大にご馳走が並ぶ。普段使いの食器をもちこんできたのだ。 何を好きのこのんで、ここまで車できたのか。 それがこの物量じゃぞ。 グァッハッハッハッハハー!。 修験者の皆様のご迷惑にならないぎりぎりの音量で我々の宴会は続いた。 (でも迷惑千万だったことでせう、ガハハハ) 夜中、小キジ(★)をうちに小屋の外に出た。 カチンカチンに凍えた月が空高く出ていた。 翌朝、我々を残してもぬけのカラになった小屋に、奇妙な、 かすかな美しい音色が聴こえてきた。 金属的だが、少しも耳に障らず、心地よい音楽のような響き。 我々は屋外に出た。 樹という樹は、透明な冷たい皮膜に覆われ、明るい朝日に乱反射している。 さぁーっと風が吹く。 するとあの"音"が聴こえてくる。 3人とも同時に気がついた。 頭上の高圧線を覆っていた氷の皮膜が風に吹かれ、 キラキラ輝きながら散って行く。 その一部が鉄塔のあちこちにあたって音を奏でる。 3人はバラバラに散って、この景色と音楽を一杯に吸い込んだ。 天国の金管楽を。 by ワンコ (★:登山やアウトドアで使う符丁=小便の意味) ※当文章の無断転載や引用を禁止します。 |
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