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いま日本中がたいへんな焼酎ブームである。主役は「乙類」いわゆる「本格焼酎」と「泡盛」で、中でも本格焼酎は「米」「芋」「麦」「蝎麦」「黒糖」「粕取り」から「胡麻」や果ては「人参焼酎」まで、何でもありの様相である。その中で存在しないのが「ビール焼酎」と「果実焼酎」である。
「果実焼酎」は酒税法で焼酎の原料として果実を使うことが禁止されているので存在しないのだが、麦焼酎が存在するのに「ビール焼酎」が存在しないのはなぜか。そこには麦酒を巡る日本固有の事情、それも麦の持つ自然の摂理からはずれたきわめて不自然な酒造りの事情があった。
麦は中東を原産地とする穀物であるが、世界二大穀物と言われる米より人間とのかかわりは古く、また栽培地は米よりも広い。さらに麦から造られる酒はブドウのワインと並ぶ古い歴史を持っている。その理由はアルコール発酵のメカニズムと関係している。
アルコールは酵母が糖を分解したときに生成される。だからはじめから糖分を含んだ液体は容易に酒になる。ブドウなどの果汁やミードの原料である蜂蜜などがそれにあたる。一方穀物は主成分のデンプンを酵素などの力を借りて糖化しないとアルコール発酵してくれない。米を口で噛んで唾液中の酵素で糖化する口噛み酒や、麹を使う清酒、「曲」を使う老酒などがその例である。
ところがその穀物の中で麦は例外であった。麦を水に浸して置くと自然に発芽するが、その芽の中にはデンプンを糖に変える強力な酵素が存在し、さらにその酵素は熱に強いので、発芽した麦(麦芽、モルトと呼ぶ)でパンを作り、それを水に漬けておくと酒になるのである。これがビールの原型であり、乱暴な言い方をすればそれをさらに蒸留したものがウィスキーであった。つまり麦はその自然の摂理として自ら糖化酵素を産み出し、自然に酒となるのである。
さて話を焼酎に戻そう。酒税法で定める日本の焼酎のうち乙類、本格焼酎の条件は麹を使うことと単式蒸留である。原料として禁止されているのは前述の果
実と麦芽である。この二つを禁止している理由は焼酎とウィスキー類(ブランデーを含む)との区別
をはっきりさせるためであろう。だからこそ麦を発芽させずに麹で糖化するという不自然な工程を入れなければならないのである。
麦焼酎の発祥の地「壱岐」には、古代米といわれる赤米を神事に使う昔からの祭りが残されている。ある時、神聖な米が不足して麦で代用のどぶろくを造った。それは不味かったが、伝来の「蘭引」で蒸留したら意外に旨い焼酎になった。案外こんなところが麦焼酎発祥の真実かもしれないのである。
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