利酒師奥州屋さんのお話を連載します。
利酒とは酒の香り、味、出来を利きわけること。
蔵元に通い酒造りのお話を聞き、お酒の声を聞くこと。
お客様の御注文に合ったお酒を選ぶこと。
利酒師はキキ手であり、キキ耳をもっていなければなりません。
さまざまな「あんな料理、こんな料理。こんなお酒ないかしら」という
御注文にお答えする師の素晴らしい技をお披露目します。
〈3〉ワンカップ片手に利酒師は行く
お元気でしたか?奥州屋でございます。
花粉症の方にはつらい季節でしょうが、
私は今頃から桜の咲くあたりの季節がわりと好きです。
なんとなく春めいてきて、陽気もポカポカとして。
そんな日は電車に乗ってふらっと小さな旅に出かけたくなります。
手作りのお弁当と、少しのお酒を持って家を出るんです。
こんなときは、私はカップ酒です。足りない分は現地調達です。
それもまた楽しみのひとつですよ。
旅先でどんなカップ酒に出会えるかって、考えただけでわくわくしてきます。
それほど私は、カップ酒が好きなんです。
カップの形、蓋、ラベルにいたるまでみんな好きです。
ただ、普通酒や三増酒が多いのが少し残念ですけど・・・。
でも、不思議と旅先では許してしまうんですね。
なかなかいけるじゃん、なんて思ってしまうんですねー。
いやいや。
でも、やっぱり特定名称酒のカップ酒に出会えたら、
それはもう感激ものですが、現実はなかなか厳しいものなのです。
私の場合、カップ酒の調達場所は駅の売店がほとんどですが、
これがなかなか大変なんですよ。
へたをすると売っていないこともあるんです。
売っているのは全国どこでも買える(と思う)
大手メーカーさんのカップ酒ばかりです。
けっして大手さんのカップ酒が悪いとか言いたいのではないのです。
駅に地元のカップ酒がないとは何事でしょうかと、私は言いたいのですよ。
特に私のようなカップ酒好きのB級旅人にとっては、
悲しくなってしまいますね。
まず行った先の駅でカップ地酒を買い、飲む。
するとなんとなく、その土地から洗礼を受けたというか・・・。
酔いがまわってきます。
それとカップ酒って、その土地のお酒を知る入り口のようなものに、
私には思えるんですよね。
だから旅先の駅にカップ地酒が置いていないときは、悲しくなるんです。
私から見ると、カップ酒はまだまだぞんざいに扱われているようです。
もうちょっとだけ質のいいカップ酒が増えて欲しいのです。
そして全国の駅の売店のみなさん。
1銘柄だけでも、私のような者のためにカップ地酒を置いてください。
そんなカップ酒ですが、少し明るい話題もあるんですよ。
今、東京では若い人たちの間でカップ酒がブームになりつつあるとか。
カップ酒バーなるお店も誕生したと聞きました。
またカップ酒に力を入れ始めた酒販店さんもあるそうです。
2月に宮城のある蔵元さんを訪問したときに聞いた話ですが、
この蔵元さんのところにも普段は販売していないタイプのカップ酒の
注文の依頼があったそうです。
この蔵元さんの話では、若い人たちにカップ酒が受けているのは
カップ酒の形、レトロなラベルの文字や、また笑ってしまうのは、
居酒屋などでの小一合といって出てくるお酒の容量(器)に、
本当だろうかと疑いをもっているらしいのです。
その点、カップ酒なら間違いなく一合だから安心だというわけらしいのです。
一合といえば、最近のカップ酒はどうも200ミリリットル入りのものが
主流になってきているみたいですね。
さらにこれの1.5倍なんてものも珍しくなくなってきました。
おじさま達にはうれしいことだと思います。
また、これとは逆に、内容量を少なくして中味を吟醸酒タイプの
質のよいものを、女性向けに販売している大手メーカーさんもあるようです。
このタイプのものは屋外で飲むというよりも、
ナイトキャップ的な目的で使えるのではないでしょうか。
カップ酒もその目的別で選べる時代になってきたようにも思えます。
生貯蔵酒のカップ酒なのに常温で保管できるものなど、
技術面でも日々進歩しているみたいです。
さて、なんだかんだと勝手なことを書いてきました。
私がいままで出会ったカップ酒で、もう一度だけ飲んでみたいものを
1つだけあげるとすれば、一昨年の元旦に松本駅で出会った
「大雪渓本醸造カップ」です。
思わず背筋がシャキッとしてしまいました。
私には理想のカップ酒です。
それから今は手に入らないカップ酒で思い出に残っているものを
幾つかあげますと、宮城は「一の蔵・無鑑査カップ」や、
おなじく宮城の「わしが国・山廃純米カップ」が、今一度飲んでみたいです。
たしかに「一の蔵無鑑査」は酒として今でも飲むことができますが、
私としてはカップ酒の無鑑査にもう一度会いたいのです。
彼のその姿は、今でもはっきりと思い出すことができます。
(あはは、おおげさですか)
とにかく、私はこれから先もカップ酒の味方でありたいと思います。
これからの人生もより多くの素晴らしいカップ酒と出会えることを祈って、
今回はこれにて失礼いたします。
次回のご注文よろしくお願いいたします。
4月8日 花まつり
奥州屋
〈1〉クリスマス料理に合う日本酒ってありますか。
〈2〉いろいろなお酒があって、どんなお酒を飲んだらよいか、わかりません。
〈3〉ワンカップ片手に利酒師は行く
〈4〉こんな季節にスキッと飲む日本酒ってありますか?
(5) 暑気払いに手軽で楽しいお料理とお酒ってありますか。
奥州屋お江戸にのぼる
カップ酒探検!
その1 ―塩釜編―
その2 ―花のお江戸の夜はレモンハートで―
その3 ―ああ、波乱万丈のワンカップ探検! おっと地震だあっ― 最終編。
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