(陸前・陸中編)

再生建築家・東北文化学園大学環境計画工学科 大沼正寛

岩手県の各地に残る古民家で、
伝統建築物の研究をすすめている大沼さん。
東北の風土と長い時間の中で磨き抜かれて来たこれらの技術や工夫、
そして知恵を風化させず現代に再生しようという試みを、
建築家の立場から興味深いお話で連載して行きます。

その1「屋根のシルエット」
 語弊を恐れずにいえば、古民家が多く現存するのは、
いわゆる日本の僻地だ。効率化が及ばなかった地域だ。
私が住む宮城県が好例で、新幹線や国道が縦貫する界隈よりは、
不便な地域の方が圧倒的に残存率が高い。
では僻地の今は?私が見るかぎり実に豊饒である。
都市生活と同じ情報を持ちながら、はるかに美味しい食生活をしている。
古民家のはなしもその延長上にあるし、
東北にあと数年(?!)は、 相当数が現存しているだろう。
実は古民家も絶滅寸前のトキのような状況にあって、
この「置いてけぼりゆえの優位性」を是非守りたいし、
そのためにこのコラムも書きたい。

古材を売りさばくブロ−カ−に渡る前に、
所有者と地域と協力者に気づいてもらわねばならない。
この地酒横丁に飲みに来られた方々は、きっとお分かりいただけるはず。
 さて古民家と聞いて何を思い浮かべるか。
それは何といっても、あの大きな「屋根」ではなかろうか。
もちろんできるなら「茅葺屋根」といいたいところ。
しかし茅葺屋根の外観を呈しているものは極めて少ない。
ただ私個人は、茅の素材的魅力も去ることながら、
やはり筆頭はあの「大屋根のシルエット」である、とおもっている。
 屋根がどうしてあのカタチなのか。
まずその起源は当然、竪穴式などの原始住居にもとめられる。
見学施設や教科書を思い起こせば、内部は丸太を人の字に合わせて組んで、
その上に草を葺いていた。
この組み方の通称で有名なのが「合掌」であり、
民家の部位用語としては通常、「叉首(さす)」と呼ぶ。
しかし組み方は一つではなく、たとえば人の字の間にもう一本、
↑のように、支柱を置くものもある。
モンゴルのゲル(パオとも呼ばれる)の大型のものなんかもそうだ。
これを民家の場合「オダチ」や「真束」と呼ぶ。
これらは、今も残る民家の大屋根の内部にも残っていて、
有史以前に人類が培ってきた「小屋組技術」が遺伝しているのである。
 ではあの勾配はどうか。
雪国の「合掌造り」は分かりやすいが、普通は「矩(かね)勾配」といって、45度が基本になっている。
これだと、三角に組んだ木材の自重と屋根荷重の伝達具合がいい。
そう、人の字の美しいスタイルである。
しかし勾配の理由にはもう一つあって、
茅葺の素材自体が完全な防水構造ではないから、
このくらいの勾配がないと水はけが悪い。
近世になると民俗的な建築でも木端(コバ)葺きや柾(マサ)葺きといった
いわゆる板葺き屋根が一般化するが、
これらはどれももっとゆるい勾配であって、
屋根の素材と勾配は切っても切れない関係にあるのである。
 そして「一つ屋根の下」の屋根の大いなる精神性。 美しさ。
これはもはや語る必要もないだろう。
今では屋根がみえない住宅も普通だ。
最近の住宅は私の実家も含めて「ブスのオンザまゆ毛」。
ツルピカの外壁をあらわにして、生え際まるみえ。
無落雪を売りにしたテッペン禿げタイプもある。
ま、こちらの改革はそれはそれで進めましょう。
 さて今回は大屋根の一般説を述べましたが、
屋根の「生え際」や「襟足」も大事ですので、
次回は具体例を挙げながら「ひさし」に触れたいと思います。

註)筆者が中学当時(昭和60年ころ)に、前髪の長髪が流行っていたため、
ある女子学生が、前髪が短髪だった女の子を指して「あのオンザまゆ毛。」
と呼んでいたのを思い出した。
ブスとはまことに失礼な物言いだが、現代建築のツルピカ加減は、
周囲を気にしないその態度からして「性格ブス」に他ならない。    大沼

(2004.12.6)

 ちなみに今、岩手県南は大東町の古民家を解体保管していて、
これを再生する顧客を募集しています。
関東に働き掛ければいると思いますが、僕は東北の方に使って欲しいのです。価値観の逆輸入でもよいとおもいますし、
このコラムもその意味でよいかなとおもっていました。
拙稿ですが不備不足のご指摘などよろしくお願いいたします。                           その1 了

東北地酒横丁
遠野を取材した折に、始めて南部曲家の実物を拝見しその大きさ、
重厚さに驚きました。
その後何度も遠野ほか東北各地を取材で歩くのですが、
最近はこうした古民家を移築、復元保存している公共施設が増えています。
保存状態も展示(移設のしかた)もよい建物は、中に入るのをためらうほど。まだ、お住まいの方が居て「はい、なんの御用でしょうか」と出てくるような気がするものです。一度こういう施設に来てみませんか。
日本のついこの前までの暮しがどのようなものだったか、
実体験できる場所です。
●その1「屋根のシルエット」
●その2「廂(ひさし)の下は縁むすび」
●特別編「茅屋根の可能性と現行制度」
●国際シンポジウム「日独住環境セミナー」のご案内(2005年5月)
●環境計画工学科 特別公開講座
●住環境セミナー/北上川河口のヨシ原から宮城の建築風土を考える(2005年10月)

●同上レポート(2005年11月)
●その3「家は南向き!?東向き!?それとも」 以降へ


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