◆住環境セミナー報告

05年11月4日制作
リポート・脚注&コメント/東北地酒横丁
●東北文化学園大学環境計画工学科 特別 公開講座
 住環境セミナー/北上川河口のヨシ原から宮城の建築風土を考える
開 催:05年10月29日(土)
会 場:東北文化学園大学階段教室1
主催者:環境計画工学科学科長 岡田誠之教授
       同       須藤 諭教授
       同       大沼正寛講師(当セミナーコーディネーター)
パネラー:
    熊谷秋雄 (有)熊谷産業 常務取締役
    本田 健  日本画家 遠野市在住
    武澤 秀一 東大教授 現東北文化学園大学環境計画工学科教授
1.主催者ご挨拶/岡田教授





葦原の機能は水を浄化する。水鳥の営巣・産卵、棲息地となる。
魚類の産卵地となる。
日本の茅葺き屋根の原材料は石巻市北上町のものがほとんど。つまり、北上川河口のこの葦原でほとんどをまかなっているのが現状だ。
いま、地球規模で環境問題がさけばれている。その中で「ゼロ・エミッション」
(註)という言葉が重要で、その意味で本日は、葦原と茅葺屋根の持つ意味を考えたい。
(註):ゼロ・エミッション=廃棄物ゼロの意。大量生産・大量 消費で経済大国となった先進諸国や日本で、現在大きなテーマとなっているのが製品使用後に残る廃棄物をゼロにしようというもの。現状の経済活動では実現不可能とされているが、例えば日本家屋は千数百年間、木と土と紙ほか植物でつくられてきた。これらの材料は、建物を廃棄しても木は再利用可能。土は大地に戻り、紙は燃やして灰に。茅や藁は寝かせて堆肥になる。こういう生産とリサイクルがゼロ・エミッションの理想。      【註文責:東北地酒横丁】
2.基調講演/熊谷秋雄
1.

2.

3.
4.


5.

6.

7.



8.

9.
  熊谷産業の仕事
国の重要文化財 医王寺(栃木県)
かや場
北上川河口葦原の四季の風景
熊谷貞好(熊谷産業社長・黄綬褒章受賞者)
浜がや
北上川河口葦原は汽水域(海水・淡水の混交するところ)のため丈夫なカヤ(屋根材料)になる。
葦の利用
例えば、マメコバチの巣箱。
ゼロ・エミッション
茅葺屋根で使い終わった茅(葦)は、廃棄して1年で堆肥になる。
葦原
北上川河口の葦原をいま私たち(熊谷産業)が手入れしているが、もしこれが出来なくなると、すぐ葦原は荒廃してしまう。1度荒れたら、元に戻すには5年かかる。
若い職人
熊谷産業ではいま若い職人が二人いて、がんばっている。
新しいニーズに沿った仕事づくり
茅葺屋根工事はとにかく人手がかかり、確かに割高だ。この仕事を守って行くため、新しいニーズやシステムを開発して行かなければならない。その参考となるのがヨーロッパだ。

[熊谷秋雄氏話]










昔は人手で茅刈りをやっていたが、いまはデンマーク製の水陸両用トラクターでやっている。できるだけ原材料費を抑える努力をしている。
伊勢神宮ほか全国の神社、仏閣など国宝、重文等の仕事をやっているが、もっと個人の家の仕事もやって行きたい。
しかし、個人の家となると防災22条が大きく立ちはだかる。
平成の大合併で、宮城県はこの防災22条適用範囲を大きく拡大しようとしており、うち(北上町)の隣りとなる登米市がその適用地域となれば、うちはもう仕事が出来なくなってしまう。そうすると葦原はもう維持できなくなる。
現在宮城県でこの条例が適用されない地域は七ヶ宿町と花山村のみ。
全国の資料(註)によると、この防災条例達成率は神奈川県が第1位 。宮城県が第2位となっているが、4年前の資料なので現在は宮城が全国1位 の達成率ではないか。

(註):1位 神奈川県 2位 宮城県 3位 愛知県 4位  東京都 5位大阪府
※この資料を読むと横浜のある神奈川、名古屋のある愛知、東京、大阪よりも宮城県は大都市らしい!【註文責:東北地酒横丁】


とにかく宮城県の規制が全国一だ。
現在、日本全国では景観条例(註)等が施行されているのに宮城県は時代逆行しているのではないだろうか。

(註):景観条例=全国に残る古い町並、建物をその地域の大切な景観として保存して行こうとするもの。個別 の建築物だけではなく伝統的建物群など町並そのものをしっかり守って行こうという考え方による。【註文責:東北地酒横丁】






石巻市と掛け合っているが役所ではどうも話しにならない。石巻市の新市長と話をしたら、少し道が拓けるような感触をえた。
ヨーロッパ、とくにオランダでは新築の家に茅葺屋根を使っている。茅の下に耐火ボードを貼り防火に努めている。また、私たちのやり方(伝統工法)ではなく、簡便なビス止めでコストダウンをはかっていた。
(ここでヨーロッパ各地の「茅葺屋根」最新建築例スライド上映)

(コメント):ヨーロッパの茅葺屋根現代建築(個人の建売住宅も)はものすごくオシャレだ。デザインがいい。デザインとはかく有るべし!というもの。それでいてシックで思わず住みたいと思う建物の数々。茅葺屋根がもたらす落ち着きが、さらに心を惹きつける。それにしても日本の建築、住宅地や都市デザインの貧相なこと。超一流の建築家の手になる建築物は別 として普通の住宅、ビル、マンションなどどれもこれも画一的なために、息が詰まりそうになる。これは『貧想』にも通 じるのではないか。石の国ヨーロッパが、茅葺屋根を普及させているのには、充分な戦略があるのではないかと思う。都市とは家とは。そうした器の持つ本来の機能を考え抜くとそこに住むのは『人』であるということ。人はつまり生き物なのだということを、ぽつぽつと思い浮かべながらスライドに見入った。       【コメント文責:東北地酒横丁】



ドイツの高級リゾート地にある「ルイ・ヴィトン」や「カルティエ」の直営店は全て茅葺屋根の超モダン建築なんですね。
(日本では)茅葺屋根のある家や建物は一種、ノスタルジーでしか判断されないのですが、私はもっと未来的な発想で行く時代なのではないかと思います。
3.パネルディスカッション
[本田健氏]




私が住む遠野の家は廃屋をリフォームしたものです。日本って古い家や廃屋の使い方が下手ですね。リフォームして住んだら住み心地がいいんです。
ニューヨークに1年間住みましたが、遠野の家が素晴らしい。環境というか外と一体になれる。昔の職人の手仕事が見えてくる、こんな良い所はない。

[武澤秀一教授]








日本はもともと「葦」の国。豊葦原と呼ばれた国です。縄文につづき弥生の人々が入って来て、稲作を始める。葦は稲科の植物なので、実によく日本の土地にマッチしたんです。あっという間に稲作が普及したのもこうした素地があったからなのでしょう。
(先のスライド例から)ヨーロッパはゼロ・エミッションやリサイクルという考えが進んでいます。
日本はいまがターニングポイントなのではないでしょうか。
宮城県のやり方は、「過度の安全志向」しか見えません。文化的な思考や指標がなく、ただひたすら数値的(機械的)に当てはめるだけです。
設計や建築の世界でも(宮城県は)硬直化し、クリエーティブではないと言われていますね。

-役所の硬直化について-

[熊谷秋雄氏]




石巻市役所に行けば「県庁に行け」と言われ、県庁に行くと「それは各市町村の問題だ」と差し戻され、たらい回しです。
さっきも言いましたが、いま石巻市長と直に話しをしていて、(この防災条例)を突破したいという(市長の)感じがあり、少し希望があります。

-家屋の防火について-
[本田健氏]




家が火事にならないようお盆には近所の子供たちに「ロケット花火は人家に向けないで」と注意している。
そもそも「火」に小さい頃から親しんでいれば、常に火に対する緊張感を保てるはずなんですよ。

[武澤秀一教授]




火災が起こる原因は、家の中からが一番。タバコの火、台所、電気です。 こうした一番の原因から防止対策を発想しないと。
オランダでは年間、2000〜3000棟の茅葺新築住宅が建築されているんです。(つまり日本とヨーロッパの考え方の違いを暗に示唆)


[岡田教授まとめ]





葦(アシもヨシも同じ)は、水中のチッソ、リンなど赤潮の原因となる物質を吸収してくれます。ところが、さきほど熊谷さんのお話にもあったように一度荒廃してしまうとですね、葦が腐れて、逆に水質を悪化させるのです。
ですから葦原はどうしても人の手を加えなければならない。
本日の講座では、様々な環境に関するテーマが出て来たと思います。これから一層、本学科が取組むべきものが見えてきたのではないでしょうか。

全体終了
■東北地酒横丁コメント
 1時間40分という短い時間のセミナーでしたが、内容は充実していました。茅葺屋根というとどうしても古い田舎の家を想いますが、まったくそのようなことはなく、現在全世界が抱えている環境問題-自然と人間の共生の問題、リサイクル、ゼロ・エミッションの問題、さらにはエネルギー問題など-が実にびっくりするほど現れてきた、そういうセミナーでした。  宮城県の防災条例22条の資料を読ませていただいた中で「茅葺屋根民家を殲滅せよ」という言い回しの一文に目が止まりました。凍り付いたと言ったほうが正しいと思います。まるで大本営発表の檄文のような表現です。それほど憎い対象なのでしょうか(資料は昭和40年代終わりころ?)。硬直と言われても役所はひたすら命じられた事を全うする。それは大変素晴らしいことですが、現代の全世界的なテーマを含む問題を検討もせずに、現行条例を振り回し続けるのもいかがなものでしょう。美しいみやぎの風土がありきたりの、全国津々浦々みな同じ風景となるのが好ましいのでしょうか。 一度、多くの専門家や文化人、有識者(例えば赤池学氏とか)に集まって頂き、こうしたテーマを考えてみるのもよろしいのでは。 「日本の茅材のほとんどを提供している北上川河口の葦原」があり、日本の国宝や重文の屋根補修、修繕、全面 張り替えを手掛ける熊谷産業がある宮城の土地。この2つは日本に誇れる宮城の宝ではないのでしょうか。宮城県がこの宝を同時に失うことで得られるものとは何なのでしょう。 次代に残す価値ある風土とは、世界に先駆けて自然と共存し、世界が瞠目する環境保全を誇る美しい個性有る風土みやぎ。1億2千万人分の宮城県職員に選ばれた皆様なら、きっと素晴らしい知恵で現行防災規制に替わる画期的なシステムを構築できるはずです。
All contents (C) copyright 2004. TOHOKU "SAKE" SIDE STREET. Japan