第1回「だめ!あんだがだ、もう帰りなんせ。」
ある晩、いつもの店でいつもの連中と酒を呑んでいる時、わたしは突然閃いた。
「盛岡で呑もうぜ。酒も肴もうまい。おねいさんもキレいだ」。
この一言で決まる。全員無言でうなづいた。
へたをすると今すぐ席を立ち仙台駅に向かいかねない。
とうに列車は終わっていたのが、唯一歯止めだった。
日取りと広報は某S君に任せ、盛岡酒呑みツアーは決定した。
北国の初秋の光は冷たく澄んで、美しい。
仙台から6名の男どもは、車や電車でバラバラに出発。
盛岡に住む仲間のマンションにほぼ同時に集合した。
段取りは不用なのである。
酒を呑むという1点さえクリアすれば、あとはどんな事態も克服してみなあつまる。
というかそれしか考えていない、というふしもあるが。
某S君の広報紙には「盛岡進出焼肉激食どぶろく沈没行」という
手書きの適切なタイトルが踊っていた。
目的は、まさしくこの1行のみ。焼肉の前にまず飲み物で下ごしらえと行こう。
目指す店は盛岡で有名な炉端形式の居酒屋である。名前はあえて伏せる。
開店までまだ3時間もあり、世話役のわたくしは盛岡市内観光ツアーを催すことにした。
紺屋町を巡り茣座九をウィンドウショッピングし、
中津川のほとりの長い長い散策路をそぞろあるく。
「諸君あれが彼の有名なる第5分団の火の見櫓だよ」。
地元盛岡出身者があまり語らないので、わたくしがガイドをしつつ、
7名の野郎どもは川べりをうろつく。
不来方城公園ではナナカマドも赤く色づき、
学生服の男の子とセーラー服の女の子がベンチの真ん中で、
二人ぴったり肩を寄せ合っていた。
この麗しい光景にもっとも不釣り合いなのは7名の野郎どもだが、
我々は誰一人そのことに気付いていなかった。
歩いて歩いて、全員の喉は餓狼のごとく。
夕方の残光の中、我々はようやくその店の戸口にたった。
午後5時30分。
南部訛りの優しい言葉で出迎えられ着席。 同時に「ビール下さい」と叫ぶ。
大ビン1ダ−スが瞬時に空となる。
さらに10本追加。やはり瞬時に消える。
わずかに潤いを取り戻した餓狼の顔を確認し、この店オリジナルの日本酒一升瓶を注文。7名は無言で飲み干す。
ううう、つ〜。ぷはぁ〜、う〜む、ひょ〜。
ようやく声らしきものがあがる。
ここでお通しが運ばれて来たが、この店のお給仕が遅いためではない。
一升瓶の最後の一滴を片付けて一息つく。
我々はすかさず名物のどぶろくに移る。ひと鉢3合入りを3つたのむ。
強力などぶろくの作用のせいか、周囲が静かなせいか、
我々だけが高速で動いているような気がする。
お店の方も何故か遠くにいるような気もする。
だが、そんなことは誰も気にとめない。
盛岡の空気と光が酒とともに身体に染み込み、豊かな気分となる。
その時某Y君が「お母さん、お酒もう一本!」と一升瓶をつかんだ。
転瞬、店のおかみさんはその瓶をぐいと奪い返し我々を睨みつけながら絶叫した。
「だめ!あんだ方もう帰りなんせ。この酒は出さない」
その迫力にハッと目が覚めた。お勘定を済ませ、店を出る。
午後6時。
入店からピッタリ30分でその店を追い出されたのだ。
冷たい外気が爽やかだった。
我々は満ちたりた足取りで、焼肉店へと向かったのだった。
《Text by Wanko》
第1回 「だめ!あんだがだ、もう帰りなんせ。」
第2回 あれは16年前のちょうど今頃だった思う。
第3回 幻のきりたんぽ鍋
第4回 林道激走・日本酒崩壊&UFO事件
第5回 海よ、山よ、川よ。我らは町には住めない輩だから。
第6回 「ああ、ご先祖様!?」
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